(5) 茎伸長とスペルミン A role of spermine in the stem elongation

Arabidopsis2005-06-08

茎の長さすなわち植物の背丈は,植物個体のかたちを決める最も大きな要因の一つです.
その調節に関する分子的基盤を解析することは,種によって異なる茎の伸長様式の多様性の理解へつながることは勿論,遺伝子発現や細胞の分裂,伸長などの“細胞を単位とする”基本的生命現象の本質を問う研究そのものです.
私たちは,シロイヌナズナの茎伸長欠損変異体acaulis5 (acl5)の解析を行ない,その原因遺伝子ACL5がスペルミン合成酵素をコードしていることを明らかにしました(Hanzawa et al. 2000).
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スペルミンは,プトレシンputrescineやスペルミジンspermidineとともにポリアミンpolyamineと総称される低分子塩基性化合物で,あらゆる生き物の生体内に存在し,多面的な生理活性を持つことが知られています.
植物でも,花芽誘導やカルスからのシュート形成の促進,果実の登熟や老化の調節機構,病原抵抗反応への関与を示唆する,多くの生理学的研究成果が報告されてきましたが,遺伝学的にその機能の重要性が実証されたのはACL5が最初です.
その後,データベース情報からACL5の類似遺伝子としてシロイヌナズナのゲノム上にACL5を含めて4つの遺伝子を見出し,それらが2つのスペルミジン合成酵素遺伝子(SPDS1, SPDS2)と2つのスペルミン合成酵素遺伝子(ACL5, SPMS)であることを組換えタンパク質を用いた生化学により確かめました(Hanzawa et al. 2002).
また,SPDS1, SPDS2両遺伝子の欠損変異体を単離し,それぞれの単独変異は正常に生育する一方,二重変異株は胚致死となり,スペルミジンが植物の生育に必須であることを証明しました(Imai et al. 2004a).
他方,SPMS遺伝子についても欠損変異体を単離し,ACL5, SPMSの二重変異株はスペルミンを全く合成しないにもかかわらず、acl5の単独変異による茎伸長欠損以外は正常な表現型を示すことから,スペルミンは少なくとも通常の生育に必須ではないことを証明しました(Imai et al. 2004b).
この結果から,ACL5を介して合成されるスペルミンは,SPMSによって合成されるそれとは時間的または空間的に異なるところで機能する可能性が示唆されました.
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ACL5によって作られたスペルミンは茎伸長に具体的にどう関わるのでしょうか?
これはacl5変異体の茎伸長欠損がジベレリンやブラシノステロイドオーキシンなどの添加によって回復せず,これら既知の植物ホルモンの作用とは直接関係がない点でも注目すべき問題です.
茎伸長におけるスペルミンの作用機構を明らかにする方法の一つとして,acl5変異体にさらに変異を誘発し,茎伸長の回復した変異体(最初の表現型が抑圧suppressされたという意味でサプレッサー変異体と呼ばれます)を単離し,その解析を現在すすめています.
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suppressor of acaulis5略してsac5と名付けた変異体のうち,sac51は原因遺伝子を同定して非常に興味深い結果が明らかになりつつあります.
が,今回はここまでにします.